ごめんあそばせ ぱぁと2
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 

それなりの規模がある施設だとはいえ、
特殊な機密や名簿を保管しているわけでなし。
月ごとに催しのお題目もコロコロ変わる、
単なる展示会場のはずが。
夜更けという時間帯に
地味な作業服姿ではあれ こんな大仰な頭数で、
しかもなかなかに荒くたい輩で固めた警備をつけてたなんて。

 「後ろめたいというか、疚しいことをしていればこそ、
  妨害の手が入ることを見越していなさる何よりの証拠ですけどね。」

 「全く同感ですわ。」

どっちが怪しい手合いだかと、
思ったまんまを口にしたお嬢様たちではあったれど。

 「減らず口はそこまでだよ、お嬢ちゃんたち。」
 「悪漢に立ち向かう非力な女の子という図だが、
  それでもこっちこそ、警察へ通報する立場だしな。」

そう。
自分たちは警察でもないその上、
それなりの順を踏んだ令状とか持参な身でもないので、
その筋へ通報されれば そのまま不法侵入者として、
下手すれば窃盗未遂、若しくは器物損壊への準備辺りも加算されて取っ捕まるのがオチだ。

 “そこはいつだって覚悟しておりますが。”

そっちの関係者が知己にいるのも頼りにしてはいけない。
むしろ迷惑がかかるかも知れないからと、
故に捕まらないよう心がける際のバネにしていたほどなので、
普段のひと暴れもそういう順番かどうかはさておき、(おいおい)
今宵の突撃に際し、彼らへの連絡は取ってない。

 “つか、一撃さえ加えられたら、
  向こうこそ公にあれこれ対処も届けも出来ないことと転じるんですがね。”

侵入者相手だ遠慮はいらぬと、
しかも小柄でどうやら女子ばかりの3人ぽっちと判ったからか、
侵入を察知した警報が鳴り響く中、
詰めてた顔ぶれが集まったそのまま、
余裕で取り囲みにかかった手合いがざっと十数人。
気温の下がる夜陰の行動なのと、多少は防御の足しになるかと、
体温調整機能の高い、されどクッション性もある厚みを持った
スポーツウェアのパーカーとスウェットパンツといういでたちのお嬢さんたちが、
遠慮もなしに明かりを灯された、日頃はアリーナなのか体育館なのかという
天井も高けりゃ四方への開放感も抜群の、
広々とした展示会場にて、じりじりと一角へ追い詰められて
窮地に立たされかかっていたのだけれど。

 「…シチさん、久蔵殿。」

3人が一応は相手と真っ向から向かい合ってた陣形のまま、
それぞれに得物を手にした攻撃陣の二人にやや守られて後衛にいた平八が、
大きめのヘアピン型インカムマイクで仲間二人へ声を掛ける。

 「目標までのやや高めの空間、
  そうですね、連中の頭の高さになるのですが、
  一瞬でいいから
  見通しよく“風穴”を開けてもらえますか?」

こちらが何を目当てにしているのかも、
重々察している雇い主から通達されているものか。
取り囲まんとしている顔ぶれが、
こっちにすれば忌々しい、キラキラ光り輝くオブジェを視野から遮る格好にもなっている。
屋内照明を点灯したことでそっちにもスィッチが入ったらしく、
ちょっと見、よくあるタイプのイルミネーション、
クリスマスツリーを摸したのか、
銀色のモミの木もどきを覆う格好、
傘のような三角錐に張られたピアノ線にLEDを連ねて配置し、
色彩のグラデーションや 星型ハート形といった様々な模様が流れ踊るような構成を
プログラム制御で次々に展開させられる代物で。

 『しかもしかも、即時連動型なので、
  例えば外では雨だという情報を即座に色が変わることで伝えたり出来ますし、
  スマホやタブレットと連動させられる wi-fi系の端末と処理機能も内蔵されてますから、
  あれやこれやのイベントへの伝達中枢ステーションの役目も果たせます。』

単あるタワーやオブジェなだけじゃあない、
また、固定プログラムが稼働するだけのそれでもない、
その場その場での応用が利く、柔軟性のある、且つ双方向な新型ソフトも内蔵されており。
だというのに論理展開が斬新で、
驚異の計算速度で対応するため、さほど大きなユニットも要らぬ。
華やかなだけじゃあなく知恵ものでもあるそのオブジェは、
他でもない、平八の知り合いの学生グループがコツコツと研究を積み上げて完成に至った作品だったのに。

 『ようも盗み取ってってくれましたよね。』

新進の興業企業という触れ込み、
某その道のプロに頼んで(…良親様?)追跡したらば、
依頼を受けては産業スパイもどきな真似を散々繰り広げてもいるという
何とも怪しい筋の会社であるらしく。
こたびのケースでも、様々な妨害や買収工作を繰り出してたらしいが、
そのどれへも皆さん首を縦には振らなんだ。
そんな態度に“学生の分際で”と勝手に腹を立てての末に、乱暴な策に打って出た輩たちで。
しかも、デザインくらい自前のを作りゃあいいものを、
ブツそのものを 差し押さえだか何かの抵当だかという名目で力づくで持ってったやり方も気に入らぬ。
それをそのまま、こんな会場にてのお披露目と運ばれては、
たとえこっちがオリジナルでも模倣したとの誹りを受けるのは間違いなくて。
相手は資本力だけは潤沢だったようで、奪った数日後にこの準備が整う素早さも物凄いが、

 『バグでも生じたときに手当ての要員がいるだろうから、
  何なら雇ってやってもいいなんて言って来たそうで。』

 『ヘイさんヘイさん、両眼開眼は怖い。』
 『〜〜〜。(怖、怖)』

孫子の代まで呪ってやると言わんばかりの恐ろしい笑みとともに、
日頃は温厚に糸を張ってる双眸をカッと見開いた括目ぶりは、
怖いものなぞない久蔵までも、七郎次の背後へ飛びこませた恐ろしさ。
そして、どう考えても向こうが悪いというに、証拠立てに時間がかかり、
その間に世間へ発表されてはどうにもならぬという展開。
正当性を法廷で争ううちにも新しいものがどんどん現れる分野でもあり、
無為とまでは言わないが、専門外な争いへ時間を費やすくらいなら、
口惜しい想いは拭えぬけれど、いっそ見切って新しいものへ指針を立て直す方が…と、
さすがは聡明な方々で、そんな風に割り切ろうとなさってもいるそうではあるが。

 『資本と暴力を前にしては手も足も出ないだろうと
  高笑いさせとくなんて、この私が許せない。』

金がすべての世の中だ、なんて
それがやっぱり真理でも (こらこら)、
そうじゃない場合もありって一矢報いてやりたいじゃないですかと、
珍しく熱くなったひなげしさんだったのへ、
こっちもよし乗ったと大きくうなずいた金髪のお転婆仲間たちだったのだけれど…。

 「その高さを空けさせりゃあいいんだね?」

突入時、掴みかかって来る輩を掻き分けるのにと大きくぶん回した槍型のポール、
シャキンっと両手で構えなおしたのが七郎次なら、

 「任せろ。」

わざわざそうと口にした久蔵が、
両手に握っていた特殊警棒、ぐっと改めて握りなおして
膝を深々折ってのバネを溜めると、

 「……っ!」

痩躯とは言ってもそれなりの重さはあろう生身の存在が、
耳障りな音も立てず、もがくようなしゃにむな動作も見せずの、
しかもほんの数歩という短い助走のみで。
ぼけっとしておれば視野から消えるほどの凄まじい加速にて
高々と宙へその身を躍らせ、
弾丸のような勢いつけて、真っ向から飛びかかって来るから、
まるでちょっとした獣のようでもあって。
いっそ動体視力が置き去りになればともかく、
伊達に利くから捉えられた、こちらのお嬢さんのとんでもな身体能力に、

 「うわぁっ!」
 「なんてガキだ。」

そこは微妙に素人もどき。
鍛錬を積んだ武芸者ではなく、たかだか場慣れしているだけの顔ぶれらしく。
所詮は細っこい女の子の行動というのも二の次になったか、
一瞬という尋常ではない素早さでぐわっと飛びかかってこられては
おっかないと感じた警戒の方が強く働いてしまったらしく。
逃げる暇間のなかった数人が 瞬殺でがつごつと警棒の錆にされたその後ろ、
わわっと反射的にのけぞるように飛びのいた面々の、
足元へ隙の出来たところへすかさず襲い掛かったのが、

 「…え?」
 「わっ!」
 「いってぇ〜っ!」

一気の撫で斬り、もとえ、薙ぎ倒し。
渾身の横殴りという格好で、
ポールの柄が力強い横薙ぎの一閃となって
輩たちの向う脛や足首を ぱぱぱぱんと一気に叩いて薙いだものだから。
何かのダンスよろしく、揃って痛い痛いと飛び跳ねたそのまま
身を屈めて患部をさすったりますます飛びすさって遠巻きに下がってしまい、

 「こんのアマがっ!」
 「大人を舐めてかかると…。」

着地地点にて邪魔だ退けと、尚も何人か警棒で叩き伏せたらしい久蔵の細い背へ。
あるいは、槍の中ほどから手もとまでを背中へ回し、
それも支えに体ごとぶん回し、強力な横薙ぎ攻撃を放った七郎次へ。
さすがに業を煮やしたか、脅すだけでは利かぬ奴らめと
手を伸ばしての掴みかからんとしかかった顔ぶれが出かかったのとほぼ同時。
そんな彼らの退いた軌道を、ひゅんっと勢いよく突っ切った何かがあって。
これもまた、勘のいいクチには感知できたが、
そうではなかった口には見ることさえ出来なかっただろ、
宙に躍った刹那の幻のようだった…雷光一閃。

 「何だなんだ。」
 「わっ、痛てぇっ。」
 「やだヘイさん、アタシも痛かったよぉ。」

お仲間からも悲鳴を上げさせた何かしら、
放ったらしい張本人はだが、そんなに大仰な何かを構えてはいない。
真っ直ぐ伸ばされた手には、
ゲーム機のコントローラか細身のリモコンのようなツールが握られていて、
反動もなかったか可愛らしい手もすんなりした腕も跳ねたり躍ったりした様子はなかったが、

 「…え?」

ばちっっという
何だろか聞いた覚えはあるが正体は掴めない大きな音がしたと思ったら
そのまま会場内が一斉に暗くなる。

 「停電か?」
 「馬鹿、ブレーカが落ちたんだ。」
 「何しやがった、小娘っ!」

慌てるそのまま罵声が飛び交う中、
こちらも急な暗転で視野が利かない久蔵と七郎次の腕を、
小さくて暖かくてやわらかい、覚えの重々ある手が掴まえて、

 「長居は無用です、逃げますよ。」
 「え? でも…。」

こいつら人事不詳にしとかないと、すぐさま通報されないかと
物騒な言い方をする白百合さんへ、

 「大丈夫。
  今、こ奴らの頭目、
  社長と依頼主が祝杯上げてる店へメールを送ってやりました。」

お祝いのお題目、この秋冬の最新イルミネーションにと
大々的に宣伝を打って出るつもりの新製品が、
電荷負荷過剰によりショートしてお釈迦になりましたって。

 「…えっと、それって?」

そういや、時間がなかったこともあり、
平八はイルミネーションを物理的に壊せばいいとしか言わなんだ。
自分のネット経由のクラック能力でかかると、
そちらも頭脳集団である作った人たちに迷惑がかかるので、
直接手を掛けた、しかもどう見ても子供という存在を表立たせる必要があったらしく。
でも、プログラムをインプットした部分の基盤やチップを取って来るとか、
そういう方向でもなかったような…。

 『奴らがブツそのものを持ってったので、ははぁ〜んと思ってたんですがね。』

とりあえずは展示会場から脱出し、
タクシー経由で逃げ伸びた三木さんちで着替えてシャワーをいただき。
お夜食にとキノコたっぷりのペペロンチーノを摘まみつつ、
やっとの種明かしをしてもらえば。

 『メンテナンスの人員に雇ってやるという言いようで詰めになりましたね。
  向こうさん、この技術に全然追いついてないって。』

そのものを手に入れて、とにもかくにも発表しちまえという荒っぽい真似をし、
後の補填はじっくりと 陰湿な搦め手の数々、
あの手この手を繰り出そうとか構えていたらしく。
発表の場を設けたあそこの警備も固めの、
ネットからの妨害へもそれなりトラップを張って警戒していたらしく。

 “市販のソフトでという安直ぶりには拍子抜けしたけれど…。”

まま、そっちはそっちで触れちゃあならないとこちらが警戒してもいて、
図らずも成功していたようなもの。
というか、まさかブツを壊すなんて荒事で押してこようとは
ゆめゆめ思わなかったかもしれないと、
そこをこそ狙っていたらしい平八が、うくく…とやや性根の悪そうな笑い方をしてみせる。

 『プログラムごと機能がダウンしてしまっては
  復旧しようにもどうにも手が付けられないっていう、
  実はどうしようもないレベルだったっていう無能ぞろいだったようで。』

恐らく、欲しがってた依頼主はそこごとあいつらが何とかしてくれると思ってたんでしょうし、
直接奪った奴らは奴らで、
その辺りのレベルはちゃんと持ってる依頼主だと思ってたってところでしょうね。

 『何ですか、そりゃ。』
 『〜〜〜?』

七郎次や久蔵が呆れたくらい、底抜けな手合いだったよで。

 『なので、ああなっては通報だって出来ゃしません。』

事情を話すにしても、
展示会自体も含めて、どうして修復できないのかから公にしなきゃいけなくなる。
自分たちが作り上げたものならば、
たかがこの程度の物理的なアクシデント、何とでも出来ように。
特殊な計算機能プログラムへの調整や何やが まるっと理解不能なんでしょうから、

 『それってどういうことですかって、逆に怪しまれてお終いですからね。』
 『そっか、そりゃあ公には出来ないか。』

あ、ということはあのヘイさんの攻撃って、電磁波というか雷を飛ばしたね。
すいませんね、静電気がお嫌いなシチさんには痛い思いをさせました、と。
てへっと微笑って舌を出したひなげしさんだったのへ、

 『もうもう、そこくらいは先に言っといてほしかったなぁ。』

むうと膨れた白百合さんだったが、
女子高生たちが無邪気に反省会を開いたその一件、
結構大きな情報処理&管理会社が絡んでいたらしく。
表沙汰になったその途端、
関係筋の株価の乱高下を誘発させたほどの騒ぎになったなんてことは、

  半月後に学園祭を控えてたお嬢様たちには
  やっぱり…大したことではない騒動だったということで
  片づけられちゃったそうでございます。



   〜Fine〜  15.10.14.


 *舌の根も乾かぬうちに…。(大笑)

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